本来、病院でのカンファレンスは看護師長が進行することになります。
(入院した時点で介護保険から医療保険に切り替わるためケアマネは担当外となる)
今回はなぜか、陽ちゃんが仕切ってしまった。
これまでの経緯を報告し、現在のIさんの状態や今後の方向性を検討するのだが
当初、親戚の老健に入所すると言う話は、まだIさんには何も話していないと言うことで
白紙状態となる。
病院側の話では梅田の病院も再受け入れはしないと言われ、堺の病院も治療をしないなら受け入れられないと言う。
何より、Iさんが自宅に戻ると言い張っているため、話が先に進まない。
そこで陽ちゃんは在宅での可能性、何回訪問して、どんなことが出来るか
どんなことが出来ないか などを説明する。
最終的にIさんの透析の再開の有無が問題となったため、看護師長が説得すると言われたが
ここは、陽ちゃん一人で話をさせて欲しいとお願いする。
談話室でIさんに「Iさん こんにちわぁ~」って笑顔で声をかけると
Iさんは陽ちゃんの顔を見て、一瞬微笑まれるが
すぐに険しい表情になり、「遠いところ来てもらってありがとう。悪いけど用はないから帰って!」と突き放される。
そんな言葉にひるむ陽ちゃんではない(笑)
Iさんに
「うん、帰るよ! でも、一緒に帰ろう♪」と声をかけると
Iさんは驚いたような表情で、顔を上げた。
すかさず、「自宅に戻りたいんやろ?」と意思の確認を行うと
「うん」と答える
「今日は、帰れる方法を話し合いに来たんやで」と伝えると
今までとは打って変わって穏やかな表情を見せた。
そこで陽ちゃんは透析を再開するのかしないのか、核心部分に触れていくことにした。
Iさん・・・「透析はもうしたくない」
「辛いだけや」
「透析をして楽になるんだったら、続けるけど、最近は透析後がしんどい」
「もう、40年ほど透析してきたんやから、もうええやろ」
陽ちゃん・・・「そうやなぁ~、40年って長いよなぁ~」
「でも、今、透析をやめたらどうなるかわかる?」
Iさん・・・「それは覚悟してる」
陽ちゃん・・・「長い期間じゃないで~ すぐにその覚悟の日が来るのもわかってる?」
Iさん・・・「わかってる」
「もう、死んだほうが楽になるんや」
「全部わかってるから、家に帰りたいんや~」
陽ちゃん・・・「そっかぁ~ すべて覚悟してるんやな」
「でも、私達は何もできないまま、Iさんが亡くなっていくのを
最後まで見なきゃ行けないんやな」
「元気なIさんならいつまでもお世話させてもらうけど
覚悟を決めたIさんの姿を見続けるのは辛いわぁ~」
ここまで話すともう、陽ちゃんは涙が止まらなくなった・・・
Iさんに見えないように隠れて聞いていたお兄さんや事務員の方も目頭を押さえていた。
そして、Iさんが続ける
Iさん・・・「ニコニコさんには悪いけど、最後までお願いするわ~」
「最後を看取ってくれたら、本望や」
ここでIさんも涙が溢れてきた
あかんあかん、陽ちゃんが感情的になったらあかん!!
必死で、平静さを装い 話を続ける
陽ちゃん・・・「わかった」
「家に帰ろう!その代わり、私と約束して欲しいことがある」
「透析はしなくていいから、ご飯はちゃんと食べて、薬も飲んでください」
「どんなに辛くても最後まで諦めないで、投げ出さないで、
生きる努力はしてください」
Iさん・・・「わかった」
「ちゃんとご飯も食べるし、言うことも聞く」と微笑まれる。
陽ちゃん・・・「それなら、Iさんの人生、最後まで一緒に頑張ろう!!」
Iさん・・・「今まで、頑張れ!とは言われても、一緒に頑張ろうと
言ってくれた人はいなかった。うれしいわ~」
陽ちゃん・・・「では、今から主治医の先生とどうしたら透析をせずに自宅で暮らせるか
きちんと相談してくるからね」
そう言って談話室を出て、みんなが待っている会議室に向かった。
再び、8人でのカンファレンスが再開です。
陽ちゃんは、Iさんとのやり取りを説明する。
その上で、透析をしないで食事を摂り、何日ぐらい生きられますか?と
主治医に質問すると
「人によって基礎体力が違うけど、概ね1週間から10日ぐらいかな~」
「今日の朝、元気でも、夕方 突然死をしてるかも知れない」と言われる。
そして、今度はご家族に、先生の言葉とIさんの言葉を聞いたうえで
どう思われますか?と質問すると
実兄さんは、泣きながら
「先ほど、ケアマネ(陽ちゃん)さんが誰もが聞きにくかったことを聞いてくれて、
誰もが言えなかったことを言ってくれた」
「もう、弟は充分に頑張ってきたと思う」
「弟の意思を尊重してやりたいと思う」
「今までもそう思ってきたが、透析をしなくていいと言うことは死んでもいいよと
言うことと同じだから、誰も言えなかった」
そして、陽ちゃんの方を見て「ありがとう」と言われた。
ご家族、Iさんの意思を共に確認したので
陽ちゃんは、帰宅後の具体的な介護方法について確認を行う。
「もしも、ご自宅で死亡された場合には、警察が介入し、司法解剖されることになります」
「その場合、主治医にも問い合わせや死亡診断書の提出が求められますが、記入していただけますか?」
「今回、持ち帰る薬を、透析時の薬から透析しない場合の薬に変更してもらえるか」
「何日分処方してもらえるか?」
「結果的に2週間以上生存できた場合、通院しなくても再処方してもらえるか?」
「緊急時に救急車での受け入れをしてもらえるか?」
などなど、多くのことを確認し、Iさんは そのまま退院することとなった。
Iさんの決断も勇気がいる事。
同じくらい陽ちゃんの決断にも勇気が必要でした。
陽ちゃん一人で介護をするわけではないのだから
スタッフの身体的な負担と精神的な負担を考えると・・・・
仮に、スタッフの一人がIさんの死亡を発見してしまったら
どれほど心に重い悲しみを抱えてしまうのだろう。
そんな場面に耐え切れなく退職してしまう介護者をこれまでにも たくさん見てきた。
短い時間で、いろんなことを考えた
それでも、Iさんが陽ちゃんたちに看取ってもらいたいと願うのなら
最後まで、プロとして精一杯のことをしてあげようと思った。
なぜなら、
陽ちゃん達なら、Iさんの最後を輝かせてあげられると確信しているからです。
陽ちゃん達にしか出来ないと確信しているからです。
夕方、自宅のベットで横になったIさんは満面の笑みです。
やっと、ずいぶん前にスタッフみんなで作成した動画を見てもらうことが出来ました。
Iさんもご家族もみんな 涙 涙
5分ほど泣き続けたIさんは「ほんまにありがとう」「幸せやわ」と言われた
このあたりは陽ちゃんも照れくさいので、さっと話題を変えた(苦笑)
昨日から、夜中も熟睡できません。
急変を訴える電話にはすぐに出動しなくてはなりません。
でも、陽ちゃんはなんとなく
Iさんが透析を再開してくれるような気がしています。
ヘルパーさんたちの思いは、必ず伝わると思っています。
ちゃんと透析の病院にも いつでも再開できるように
話はつけてあります
この辺はぬかりがありません(笑)
GWの予定もどうなることやら・・・
最終的には全額無駄になってしまうことになるのかもしれませんが
最後まで豪華クルージングの希望は持ったまま、もしもの時にはIさんの側にいてあげようと思っています。
Iさんは透析さえ開始すれば、1年も2年も生きられるはずです♪
当面の目標は
5月11日の招福祭りに参加してもらうこと♪
これを合言葉にスタッフ総出でがんばりま~~~す
PS=ねっ
今日、陽ちゃんが声が全く出なくなったのも
なんとなく、納得行くよね(苦笑)
土日はスタッフに任せて、ゆっくり休養しま~す♪